商社の業績を調べていると一般的な企業と業績の示し方が異なることに気付きました.
売上高が収益になってる?
売上総利益ってなに?
営業利益どこいったの?
みたいにチンプンカンプンになりました.
調べてもあまり出てこなかったので,業界人にとっては常識なのでしょうが,私のように初めて見る人には分かりにくかったのでまとめておきます.
収益と売上高の違い
収益とは「営業収益」「営業外収益」「特別利益」の合計を指します.
「収益」=「営業収益」+「営業外収益」+「特別利益」
- 「営業収益」:企業の一般的な営業活動により得られた収入.
一般企業においては
「営業収益」=「売上高」
が成り立ちます.
一方で,流通業やコンビニ業,商社においては,営業収益をさらに分解し,
「営業収益」=「売上高」+「その他の営業収益」
とします.ここで,
「売上高」:主に製品,商品など有形物の販売による収入
「その他の営業収益」:主にサービス,手数料など無形物による収入
と定義されています.
*1
- 「営業外収益」:企業の一般的な営業活動以外で得られた収入
受取利息,仕入割引,雑収入などが含まれますが,金融機関等からの借り入れや社債発行による資金調達は含みません.
- 「特別利益」:企業の非経常的な経営活動によって得られた収入
固定資産売却,有価証券売却,為替差益など,一時的に取得することができた収入を指します.
以上から分かるように,収益のほうがより広範な範囲を含みます.商社はその他の営業収益が多くを占めることが多いため,売上高よりも収益という表示をしていると考えられます.なお,昔まで商社は売上高を公開しており,何十兆という値を出していましたが,国際会計基準では,「商品を仕入れ,そのまま売る仲介業を行う場合,手数料のみを計上する」(=取引高ではなく手数料で)という決まりがありますので,国際会計基準にした商社の売上高は激減しています(昔は売った商品そのままの値段を計上していた).
売上総利益とは?
売上総利益とは,売上高から売上原価を差し引いたもの,と定義されています.別名「粗利益」です.
「売上総利益」=「売上高」ー「売上原価」
現在,商社が取り扱っている事業を分類すると
- 1.商社自らが契約当事者となり,資源開発や商品販売を行う
- 2.商社が他企業の製造した製品を仲介する(従来の商社イメージ)
の2つがあります.
1に関しては,「売上高」から「売上原価」を一般企業と同様に差し引きます.
一方で2に関しては,国際会計基準に基づけば「売上高」には手数料しか含まれておりませんので,「売上原価」を差し引くことはありません.
こうして計算した1,2の合計が「売上総利益」となります.
売上総利益と営業利益の違い
営業利益とは売上総利益から販売費,一般管理費(人件費など)を差し引いたものになります.
「営業利益」=「売上総利益」-「販売費」ー「一般管理費」
したがって,実質的に営業で得られる収益は営業利益を指しています.
売上総利益と営業利益のどちらを指標として用いるかは両論ありますが,売上総利益は行っている事業自体の好調不調を示す指標として優れており,営業利益は経営の効率性を考える指標として優れていると考えられます.また,商社は人件費が非常にかかっているため営業利益に直した場合,営業利益率が低調に推移してしまいます.したがって,商社は事業自体の好調不調を判断することを優先し,(しかも見栄えが良い)売上総利益を採用していると推測できます.
純利益とは?
純利益とは,あらゆる費用を全て差し引いたのちに残る企業の実質の稼ぎ分です.
「純利益」=「営業利益」+「営業外損益」+「特別損益」ー「税金」
商社は1980~90年代には商社不要論というものが出てくるほど,その存在が危ぶまれていました.事実,現在では仲介業での収益は事業投資に比べてかなり低くなっており,この年代に事業投資に舵を切らなかったとしたら相当危なかったのです.こんな背景もあって,企業活動の存続が可能かどうかを投資家に判断してもらいやすいように,商社は純利益を重視しています.また,事業投資型になってきたため,特別損益を計上することが間々あり,粗利益では商社の経営状況を測りきれないという理由もあります.
こういった理由から商社は純利益を重視しています.
*1:GLOBIS 知見録「売上高、営業収益、営業外収益の違いって何?」より